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ノドの書 ― 始祖記 2. リリスとの邂逅 |
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闇の中でただ独り
私の餓えは増すばかり。
闇の中でただ独り
私の寒さは増すばかり。
闇の中でただ独り
私は声をあげて泣いた。
そのとき聞こえてきたのは
甘美なる声、
蜜のごとき声。
救いの言葉、
終焉の言葉。
そして一人の女がやってきた。
漆黒の髪で、見目麗しく、
闇を見通す瞳をもっていた。
「あなたの身の上は知っていますよ、ノドのカイン」
女は言って微笑んだ。
「空腹なのね。おいで! 食べる物をあげましょう。
寒いのね。おいで! 着る物をあげましょう。
悲しいのね。おいで! 慰めをあげましょう」
「私のような呪われし者に慰めを与えようというのは誰だ?
私に着る物を与えようというのは誰だ?
私に食べる物を与えようというのは誰だ?」
「妾はあなたの父の最初の妻、
かつて天に在す主と意を異にし、
闇の中に自由を得た女。
妾はリリス。
かつて妾も凍えていた、暖をとるものもなく。
かつて妾も餓えていた、食べるものとてなく。
かつて妾も悲しんでいた、慰めるものもなく」
女は私を連れ帰り、食べ物を与え、
着る物を与えた。
女の腕の中に、私は慰めを見いだした。
私は泣きに泣いて
ついには血の涙が両眼からこぼれ落ちた。
すると彼女はくちづけでそれを吸い取った。
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