ノドの書――始祖記１

私は夢見る[1]
原初の日々を、最も遠い記憶を
私は語る
原初の日々を、最も旧き父を[2]
私は歌う
原初の日々を、闇のはじまりを

ノド、そこでは[3]
楽園の光が夜空を照らし
我らが父母の涙が地を濡らす

かの地にて、我らはそれぞれに
額に汗する労苦によって
地より糧を得ようとした

そこで私、初めに生まれしカインは
尖った道具をもって[4]
黒き種を蒔き[5]
土を水で潤し
手入れをして、守り育てた

しかしアベル、次に生まれしアベルは
畜類を牧し
血まみれの仔をとりあげ[6]
餌をやり、守り育てた

私は弟を愛した
彼はなにより輝かしく
なにより美しく
なにより逞しかった
彼はあらゆる私の歓びの
最上の部分を占めていた。[7]

ある日のこと
我らの父が言うには[8]
「カインよ、アベルよ
天に在す主に贄を捧げなさい――[9]
おまえたちが持つもののうち
最上の部分を供物にしなさい」

そこで私、初めに生まれしカインは
最もしなやかな若枝と
最も色鮮やかな果物と
最もかぐわしい青草を集めた。

しかしアベル、次に生まれしアベルは
最も幼き仔羊と
最も逞しき牛と
最も美しき馬を屠った。

我らは父の祭壇の上に
めいめいの犠牲を供え
その下から火を焚いた。
見守るうちに煙が贄を運んで
天に在す主のもとへ昇っていった。

次に生まれしアベルの犠牲は
天に在す主に香ばしく匂った。
そこでアベルは祝福された。

しかし私、初めに生まれしカインは
高みより打ちのめされた、[10]
厳しい言葉と呪いによって。
私の犠牲には価値がないと言って。

私はアベルの犠牲を見た、
まだ湯気を立てている、肉を、血を。
私は泣いた。両眼を覆った。
私は夜も昼も祈った。

そして父が[11]
「犠牲を捧げる時が再びやってきた」
と言った時

そこでアベルが己の持てる
最も若きもの、
最も美しきもの、
最も愛しいものを
犠牲の炎の前に引き出した時

私は己の持てる
最も若きもの、
最も愛しいものを
持ってこなかった。
私には判っていたからだ、
天に在す主がそれを喜ばれないことを。

すると我が弟、
愛しきアベルが
私に言った。
「カインよ、あなたは犠牲を持ってこなかったのですか。
あなたの歓びの最上の部分を供物にしないのですか。
天に在す主の祭壇の上で焼かないのですか。」

私は胸も裂けよと泣きながら、
尖った道具をもって屠った、
かつて私の歓びの最上の部分であったものを。
我が弟を。

アベルの血は祭壇を覆い[12]
香ばしい匂いをたてて
焼けていった。

しかし我が父は言った。
「呪われよ、カイン、
己の弟を殺した者よ。
私が追放されたように
汝も追放されるがいい」[13]

そして父は私を追い出し、流浪の身とした。
闇の中へ、ノドの地へ。[14]

私は闇の中に逃れた。
光を発するものは一つとして見えず
私は恐ろしかった。[15]
そして孤独だった。


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