Chapter 1 Alien Hunger

ブラック じゃあ我々は目が覚めるってことでいいですか?
ストーリーテラー
(以下ST)
その前に、人間からヴァンパイアになってもらおう。

PCがまだ人間の時点からシナリオを始めるため、STはプレイヤーにキャラクターシートの一部(クラン、妖力など)を空欄のまま残すよう指示していた。ここからはヴァンパイアに転化するので、残りの部分を埋めるよう指示する。

ST ただ、君たちがヴァンパイアであるというのはプレイヤー知識。キャラクターはまだ知らないからね。そこんとこは押さえといて。
さて――目が覚めると、真っ暗だ。
ブラック 見知らぬ土地ですか?
ST 土地というより、そもそも此処はどこ、って感じ。どれくらい眠っていたんだろう? とても空腹だ。
ジェイムズ 喉、渇いてるんじゃないですか(笑)
ST (うなずく)辺りは猛烈に寒い。季節は夏の初めのはずなのに。
ジェイムズ 真っ暗なのになぜか眼は見えている?
ST ぼんやりとはね。良くは判らない。誰か煙草吸う人いれば、マッチかライター持ってるでしょ。
ジェイムズ 身体に悪いの判ってるけどなー(←実は医者)。吸ってるんだろうなー。探偵の小道具として煙草は吸わないと(笑)
ブラック 探偵はね(笑)煙草は匂いが付くから嫌いだな。我々は縛られてるんですか?
ST 手足は自由なようだ。
カール とりあえず、外に出ましょうや。
ST 暗くて出口が判らない。
ジェイムズ ライターを点けてみる。
ST そう。この中で妖力〈千里眼〉持ってる人は?(ジェイムズとブラックが手を挙げる)じゃあ、ライターの炎が強烈にまぶしくて目がくらんでしまう。両眼に短剣をぐさっと突き刺されたような痛みを感じる。
ブラック それ、めちゃめちゃ痛いやん!
ST 痛いねえ。
ブラック け、消してくれ〜(←〈千里眼〉レベルが最も高い)
ジェイムズ 慌てて消す。
ブラック ああ、痛かった(涙目)なんだ今の光は。
カール もっぺん点けてみろ。
ブラック やめてくれ!
ST どうやらやっと明かりに眼が慣れてきたようだ。辺りを見ると……(ジェイムズとブラックを交互に指さし)腐れ縁。(カールとジェイムズ、カールとブラックを指さし)最近君たちの担当になった製薬会社の新人の営業。
カール おお、見知った顔が。
ブラック 貴様らか。
ジェイムズ なんでおまえがこんなところにいるんだ。俺をどうするつもりだ!
ブラック それはこっちの台詞だ!
ST 言い合っていると、別の隅で話し声がする。『メイヴィス、メイヴィス? ここどこ?』
ジェイムズ スージーか!(メイヴィスは片思いの相手。スージーは彼女が引き取って面倒を見ている親戚の子供)
ST (黙ってうなずく)『スージー? スージー、そこにいるの?』
ジェイムズ メイヴィスも? 明かりをそっちに向ける。
カール なんだ、知り合いかい。
ジェイムズ うん。
ST/メイヴィス 『ジェイムズさん?』ところでブラック。メイヴィスはあなたを知っていますか?(俺表で「ジェイムズの大切な人を狙っている」を振った)
ブラック 顔も名前も知ってるはずだよ。
ST/メイヴィス 『まあ、ブラックさんもいらしたの。そちらの方(カール)はお知り合い?』
ブラック ええ。こんなところで、一体どうしたんですか。
ST/メイヴィス 『それは私の方が聞きたいんですけど』
ブラック 私たちにも全然……
ST/メイヴィス 『帰り道にお爺さんに道を聞かれたところまで覚えてるんですが、くらっと眩暈がして気が付いたら……』
カール はっはっは(同じシチュエーションで誘拐されている)
ブラック いやあ、ここは蒸し暑いね。メイヴィス、喉が渇かないか?(すごく白々しい口調)
カール 俺はすごく寒いんだが……
ブラック とりあえず、彼女に怪我がないかどうか診てやろう(←実は闇医者)。近づいていく。
ジェイムズ (ブラックの本意を察して)メイヴィスさん、怪我はないですか? と紳士的に声をかけて近づいていこう。
ST じゃあ5人寄り集まるわけやね。するとメイヴィスとスージの体からとてもいい匂いがする(邪悪な笑い)
ブラック いい匂い、ね(笑)
ST 喩えて言うなら、ステーキ屋の前を通ると匂ってくるような。
ジェイムズ&カール 「おおっ(悲鳴に近い笑い)
ST あるいは腹が減ったときに目の前に出されたビーフシチューのような。
ブラック なんだ、この限りなく食欲を増進する香りは。人間を切り刻みたいという衝動とは別の衝動が……
カール (苦笑)やな奴だねえ、まったく。
ジェイムズ うう、プレイヤーとしては(吸血鬼化のせいで感覚が変化していることが)判っちゃってるんですが。
ブラック こんなところでぐだぐだ喋っていても仕方ない。
ジェイムズ 出口を探しましょう。
カール 建設的意見だな。
ST 部屋の隅に上り階段があって、天井に跳ね上げ戸がついている。
ジェイムズ その扉を開ける。
ST じゃあ扉に手をかけるね? 物凄く熱いよ。
全員 熱い?
ST ジェイムズ、強靱力判定をしてください。難易度4。
ジェイムズ 3個成功。
ST あと一瞬手を離すのが遅れていたら、掌に大火傷をしていたところだ。
ジェイムズ あちっ! なんだなんだ!?
カール このクソ寒いのに?
ブラック ちょっと扉に手をかざしてみるけど。熱気を感じますか?
ST ええ、ひしひしと。
カール その辺に棒とかないかな?
ST 棒ねえ……棒はないな。ベッドに寝かされてたんで、枕と毛布ぐらいなら。
カール 枕越しにさわってみる。
ST 枕、焦げますけど。黒く変色して。
ブラック 物理的に熱いわけだ(体感的には寒いので、凍傷を疑っていたらしい)
ジェイムズ 助けを求めるために携帯電話を取り出しますが……圏外ですか(笑)
ST 圏外ですねえ(言わなきゃ外部に通じたかもねぇ)

 全員、困り果てる。

ST みんな知覚力判定してくれる? 難易度6。
全員 2個成功。
ST 奇妙なことに気が付いた。たぶん目が覚めた時からだろう、ドクン、ドクンと低い音が耳について離れない。
ブラック ひょっとして聞き慣れた音?(笑)
ST 医者なら日常的に聞いてるんじゃないかな。
ブラック 心音か!
ジェイムズ 自分の身体から響いてくる?
ST どこか他の場所から聞こえてくるようだ。
ジェイムズ 二人分?
ST はっきりしませんが、おそらく……(ニヤリ)

ブラックとジェイムズのプレイヤーは、メイヴィスとスージーが人間だと推測している。ヴァンパイアなら生理学的に死んでいるので、心臓の音が聞こえるはずもないからだ。だから「二人分?」なのである。

ST 女性二人からは相変わらず美味しそうな匂いが漂ってくる。メイヴィスからは確かに香水の匂いもするし、嗅覚がおかしくなったわけではなさそうだ。ただね、気絶する前のあなたがたなら、彼女に対しておそらく、え〜、ま、多少のえっちな想像もしただろうけど、どういうわけか今は、純粋な食欲しか覚えない。
ジェイムズ やっぱり? プレイヤーとしては(自分がヴァンパイアであることが)判ってるんだけどなあ。

問題は、どこでキャラクターが理性を放棄するか、だ。そのためにSTはしつこいほど演出を仕掛けている。もう一押し、かな。

ブラック 自制心と誘惑との間で揺れ動いている。倒錯的ないい気持ち(笑)
ジェイムズ おれの感覚はどうなってるんだろう……