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ノドの書 ― 群影記 9. 死者の霊魂について |
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聞け――
精霊も通わず、生者も行けぬ彼方に、
闇と影の土地があり、
彼処に影どもが棲まう。
一つの島、一つの砦、死者の地、
私はかつてかの地に破滅の小道を通って至り
スティジアの都の恐ろしき王が
玉座に座っているのをたしかに見た。
頭巾を被った顔の無い者たちが
ステュクス川を渉ってゆくのを見た。
彼らは腐りかけた死体にたかる蝿のように我々に群がり、
我々と同様、恐怖、快楽、怒りを吸って食い物にする。
死者でありながら不死でもある彼らは
我らが思っているよりも
はるかに我々に近しい存在である。
弟の血が私に叫ぶ、
私が眠っている間、
太陽が空を渉る間、
私の耳には二番目に生まれし弟アベルが
泣き喚く声が聞こえている。
既に死した者の霊に心せよ。
彼らの力は汝と異なる処に在る。
死霊の言葉には耳を傾けよ、知恵をもたらすものだから。
死霊の歌に耳傾けてはならぬ、それは忘却への道だから。
死霊を縛ろうとしてはならぬ。
むしろでき得るならば解き放て。
これはカインの命令である。
カイン自身もまたかつて、虜囚となり、解き放たれたから。
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