〈冬至の儀式〉ユール、12月20〜23日

脚本:Professor

この戯曲はWerewolf: The Apocalypse 2nd Edition pg.150の『Rite of the Winter Winds』をベースにして書いています。基本的なコンセプトや流れはオリジナルと変わりませんが、よりペイガニズム色が強いものになっています。といっても元々Werewolfの世界観自体ペイガニズムの影響が随所に見られるくらいですので、さほど違和感はないでしょう。

これは非公式設定です。

登場人物
司祭シーアージかガリアルド。儀式一切をとりしきる。
ワイルドの召喚者シーアージ。〈五方の風〉を召喚する。司祭がシーアージなら兼任できる。
叩く者4人。うち1人はガリアルドであること。儀式の間一定時間ごとに打楽器を鳴らす。司祭と同等に重要な役割で、儀式の間は他の行為に一切加わらない。氏族が道具の使用を好まなかったり、用意できないなら、交代で遠吠えをあげる。その場合でもこの役割は伝統的に〈叩く者〉と呼ばれる。
 参加者はあらかじめ海、川、滝、湖などに入り身を清めておく。ケルン中央に銅鑼、太鼓、鐘など低く良く響く打楽器と、かがり火の用意をする。薪はオーク根が望ましいが、火を点けずにおく。暗がりの中で参集し、ケルン中央を囲んで輪になって座る。司祭と〈叩く者〉は輪の中に入る。
 司祭は東を向き、両腕を高く差しのべて立つ。全員が沈黙して待つ。通例この沈黙はかなり長い間続き、司祭が腕を降ろすと同時に〈叩く者〉が最初の銅鑼を鳴らす。余韻が完全に消えた後、おもむろに司祭が口を開く。
司祭今宵は冬至。一年で最も長い夜が来た。闇の勝利はここに極まる。これよりは光にその地位を明け渡すことになろう。ガイアの胎内で闇の王が光の御子に変容するその時まで、大地は息吹をひそめ、なべてのものが耐え忍ぶ。

見よ、暁が来たる。夜の最も深い時、闇が最も暗いこの時、偉大なる母は太陽の神子(みこ)を産みおとす。太陽の神子は希望をもたらし夏を約束する。今宵は動きに隠された静止、時間そのものが止まる時、万物をとりまく万物の中心。我らは光をもたらすために年の車輪を回す。我らガルゥはガイアの守護者なれば、ガイアが産褥にある時もお守りするが務め。偉大なる母が夜の子宮より太陽を呼び覚ますまで、なんぴとの穢れも触れさせまいぞ!
 司祭は力強い調子の遠吠えをあげる。〈叩く者〉を除く参加者全員がそれに続く。
 ワイルドの召喚者は輪の中心に進み出て〈五方の風〉を召喚する。手順は〈集会の儀式〉第2幕と同様である。もし、この日が満月にあたり、〈集会の儀式〉中に行われる場合は不要。召喚が終わると、ワイルドの召喚者は輪に戻る。
 円陣を組んでいる者は全員立ち上がり、低く地を這うような唸り声をあげながら、かがり火の周りを左回りに歩く。2回目の銅鑼が鳴ると同時に、外側を向いて地面に伏せる。その姿勢で沈黙を保つ。これは太陽の死、誕生の前の静止を象徴する。
 3回目の銅鑼でまず司祭が立ち上がり、静かに次のような歌を始める。一節ごとにランクの高い者から一人ずつ順に起き出して加わり、歌は力を増していく。
帆を揚げろ、帆を揚げろ
黄昏を追って西へ行け
憩いの国へ、憩いの国へ

帆を揚げろ、帆を揚げろ
幽(かそけ)き入日に顔を向け
彼(か)の岸めざし、彼の岸めざし

帆を揚げろ、帆を揚げろ
これがそれへと変わりゆく
母の胎(はら)にて、母の胎にて

帆を揚げろ、帆を揚げろ
心臓に高く炎を燃やせ
いよいよ高く、いよいよ高く

帆を揚げろ、帆を揚げろ
開いた扉を疾く抜けよ
其の時が来る、其の時が来る

帆を揚げろ、帆を揚げろ
陽なき海(わだつみ)闇越えて
汝は自由、汝は自由

帆を揚げろ、帆を揚げろ
昇る太陽導く者は
汝等なれば、汝等なれば

帆を揚げろ、帆を揚げろ
荒れ狂う嵐の中へ
転生(てんしょう)のため、転生のため

帆を揚げろ、帆を揚げろ
白く泡立つ波越えて
光もたらせ、光もたらせ
全員我らは夜に目を覚まし
車輪を回し光もたらす!
夜の底より陽を呼び覚ます!
司祭西に沈みて東に昇る
全員それは誰(た)ぞ?
司祭夜闇の淵に沈む者
全員それは誰(た)ぞ?
司祭陽無き海(わだつみ)渡る者
全員それは誰(た)ぞ?
司祭全てを新たに創る者
全員それは誰(た)ぞ?
司祭黄金の果実(み)をもたらさん
全員それは誰(た)ぞ?
司祭穢れを知らぬ無垢の者
全員それは誰(た)ぞ?
司祭開かれた手を持てる者
全員それは誰(た)ぞ?
司祭輝ける瞳もてる者
全員それは誰(た)ぞ?
司祭朝の希望となれる者
全員それは誰(た)ぞ?
司祭門を潜りて帰る者
全員それは誰(た)ぞ?
司祭光を享けて還る者
全員それは誰(た)ぞ?
司祭二柱の間に輝ける光
全員それは誰(た)ぞ?
司祭溜息の間の嘆き!
 遠吠えの斉唱。低音から急激に高いピッチに上昇するパターンを何度も繰り返す。
司祭[一節ごとに全員で復唱する]
太陽の母!
月の姉君!
角の女王!
炎の女王!
約束の御子を我らにもたらせ

偉大なる母に生を享け
生命の支配者がふたたび生まれる!
暗闇と悲嘆は退けられて
太陽がふたたび昇る!

金色の太陽
あまねき光輝で
地を照らせ!
空を照らせ!
水を照らせ!
火を照らせ!
 司祭は薪に火を点ける。
司祭死んだ我らは今日生き返る
太陽が生まれる同じ日に(全員復唱)
再び生まれ、再び生きる!(全員復唱)
太陽の子よ、冬生まれの王よ!
 遠吠えの斉唱。低く喉を鳴らす唸り声から徐々にピッチを高め、ついには甲高く震えるウルレーションになる。遠吠えが最高潮に達した時、司祭は燃えている薪を掴み取り、走り出す。他のガルゥも燃えさしを引っ掴みながら後に続く。全員、ケルンの聖域中を全力で駆け巡りつつ、できる限り恐ろしげで奇妙な音をたてる。これは太陽を産む陣痛に苦しむガイアを励ます掛け声であり、付近に潜むワームの手先を脅して追い払うためでもある。ワームは生まれたての太陽をさらおうと、あるいはガイアを害しようと画策しているかも知れないからだ。ケルンをひととおり巡った後、司祭は全員を先導してかがり火のもとに戻ってくる。手にした燃えさしをかがり火に投げ込む。炎が激しく燃え上がったら、夜どおし酒宴を続ける。
 日の出と共に、司祭は次のように告げる。
司祭闇の王は門を通り抜けた
光は母により再び生まれ出た
太陽と共に我らも再生する!
全員潮流は変わった!
光は再びもたらされる!
新たな暁、新たな一日の
太陽が昇る!
 全員で誇らげな遠吠えをあげる。〈叩く者〉の銅鑼が鳴ると、儀式は正式に終了する。

 銅鑼はガイアの鼓動を象徴し、決して途切れることなく、規則正しく鳴らさなければならない。打つ間隔は〈冬至の儀式〉を修得する者が身体で覚えるものであるが、その際「1日にぴったり69回鳴るように」と教わるという。あるグラス・ウォーカー族の文化人類学者の話では、地球のイオン圏の空洞は1250秒の周期を持った天然共鳴板の性格を持っている。ということは、20分50秒ごとに当惑星は1回共鳴するわけである。我々は毎日正確に69回鳴り響く巨大な銅鑼の上に棲んでいるのだ。戻る

【参考文献】 Werewolf: The Apocalypse 2nd Edition, White Wolf Game Studio スターホーク『聖魔女術』 鏡リュウジ・北川達夫訳、国書刊行会 ライアル・ワトソン『未知の贈り物』 村田恵子訳、ちくま文庫 アト・ド・フリース『イメージ・シンボル事典』山下主一郎他訳、大修館書店