【訳者まえがき】
本テキストは、The Vampire Courtという英語のロールプレイング・チャットの参加者に向けて書かれたものである。The Vampire Court は、WoDキャラクターを演じて会話を楽しむためのチャットルームだが、それ以外のゲームやオリジナル設定のキャラクターも許容している。そのため、本テキストは純粋にWoDのオンライン・セッション向けに書かれたものではないが、チャットセッションを行うWoDプレイヤーが読んで得るところは多いだろう。

日本語サイトで The Vampire Court と似たコンセプトを持つチャットには秘密結社NOD内の『SuccubusClub』がある。(入室前には「店内規則」を熟読のうえ、ネチケットと良識をもって入室してください)






偶然は、準備のできていない人を助けない。

――ルイ・パスツール



戦闘は面白い。少なくとも、我々TRPGプレイヤーの大半にとっては。銃を撃ったり、人を殺したり、凄腕ぶりを見せたりというのは、我々のほとんどが現実には決して体験できないことだ。だからロールプレイング・ゲームでは大いに戦闘が行われる。だが、戦闘は各プレイヤーがちゃんと目的意識を持って参加しないと、苛々させられるばかりで不満の残るものにもなる。そこで、戦闘に突入する際の心構えを箇条書きにしてみた。これらはルールではなく、「絶対にしないと駄目」というものでもない。ただ、読者が今度、架空の部屋で、架空の敵に向かって、架空の45口径を抜く時(「先に抜きな、屑野郎。ハンデをくれてやる」)、これらについて考えてくれれば幸いである。

この箇条書きは、The Vampire Court で何度か戦闘シーンを経験した後、他のプレイヤーに意見を聞いたり、掲示板の書き込みを読んだりして作成した。ほとんどは『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』のシステムを使用するプレイヤーを想定したものである。

  1. 戦闘を始める前に、敵のプレイヤーと話し合いで戦いの決着をつけるか、中立の審判を指名して勝者を判断してもらうか決めること。あらかじめプレイヤー同士話し合って、その戦闘の勝者を決めておくのもよい。こうすると戦闘がスムーズに運び、参加者全員が楽しめるものにできる。確かにこんな根回しは珍しいし、戦闘のスリルを幾分削いでしまうのは事実だが、だまされたと思って一度やってみてほしい。お互いに議論する手間が大いに省けるはずだ。
  2. 自分のキャラクターが死ぬ覚悟をしておくこと。でなければ、くれぐれも戦闘に巻き込まれないように気をつけるように。というのも、何ヶ月も(もしかしたら何年も)かけて創造し、成長させてきたキャラクターが、いきなり他のキャラクターに叩きのめされたら、到底腹の虫がおさまらないだろうからだ。不愉快だが、時として避けられない結末である。
  3. 自分のキャラクターが死ぬ覚悟ができていないプレイヤーは、自キャラに対する攻撃発言を無視したり、無敵防御や必殺攻撃をでっちあげたり、と戦闘でずるをしようとする。これは他の多くのプレイヤーを不快にさせるばかりか、高い確率でいわゆる「死んだ、死んでない」論争を引き起こしかねない。
  4. 他人から自分のキャラクターを攻撃する発言があり、その攻撃を避けたり、そらしたり、耐えたりできそうにないからといって、非常識な離れ業をでっちあげて自キャラが生きのびたことにしてはいけない。負けを認めることもゲームのうちである。確かに、そうすればキャラクターは死に、おそらく一日いやな気分になるだろう。だが、多くのプレイヤーから敬意を勝ち取ることもできるのだ。
  5. 行動の発言は交互に行うこと。敵がまだ最初の攻撃にも反応していないうちから、3つも4つも行動宣言を送信してはいけない。行動宣言するごとに、相手に反応を返すチャンスを与えよう。
  6. 知らない相手に喧嘩を売ってはいけない。自分が何と戦おうとしているのか認識すること。助太刀を頼まれないかぎり、他人の戦闘に干渉するのはよそう。かえって迷惑がられることが多いのだ。
  7. 武器を使う時は、多少のリアリズムを尊重しよう。グレネードを手榴弾のように投げたり、予備弾倉もない拳銃を300発も撃ってはいけない。弾倉を交換し、弾薬や装備を限りある物として扱おう。そのほうがずっと格好いい。
  8. 戦闘中に新しい武器をでっちあげないこと。戦闘に入った時点で榴弾砲を持っていなかったのなら、それを戦闘中に撃てるはずがない。しかし、たまたま別の種類の弾薬も持っていたことにするのは構わない。例えば、徹甲弾だけでなくグレイザー弾(訳注:命中すると体内でキャップが外れ散弾をまき散らす)も携帯していた、というぐらいならよい。ある種の弾が効かないと分かったら、弾倉を予備と交換するのだ。別の弾頭なら効く可能性はあるだろう。
  9. ダメージを受け入れること。戦闘に巻き込まれれば、人は傷つくものだ。まして、大抵の場合、敵は超常能力を持ち、半永久的に生き続ける存在で、しかも戦い方を心得ているのだから。それに、飛んでくる攻撃をただ避けまくるより、何発か攻撃を喰らったほうがずっと格好良く見える。攻撃を喰らうことは、負けを認めることではない。リアリズムを尊重するという表明なのだ。
  10. 攻撃が与えたダメージは、防御側に描写させること。一方的に攻撃が命中したと書き込むのではなく、その攻撃がどれぐらい強烈だったか相手に考えてもらおう。
  11. 合理的な対応で行動を打ち消されたら、素直に認めること。例えば、敵の胸を銃で撃ったら、「防弾ベストを着ていたので効かなかった」と言われたとしよう。このとき、「でも僕の弾は徹甲弾だから、どっちみち君は死んでるんだ!」とごねてはいけない。そいつを倒すには別の方法をとる(例えば、自分の銃に徹甲弾を詰めた弾倉を込め直す)必要があるというだけのことだ。
  12. 行動に用いる能力値を明らかにすること。単に「私はその銃弾をかわす」と宣言するだけでなく、どの能力値を用いてその行動を可能にしたのか付け加える(この場合なら〈敏捷〉+〈回避〉)。
  13. 自分のキャラクターを作成したゲームシステムのルールに従って演じること。The Vampire Court のプレイヤーのほとんどは V:tM のルールに従ってプレイしている。システムのルールにはなるべく従おう。能力と能力を競わせるような状況では、別にパソコンの前でダイスを振らなくても、ちょっと頭を働かせれば判断できる。こういう時のうまい解決法は、使用する能力値を足し合わせて、合計値が高い方が勝ちとすることだ。合計の差が大きければ、それだけ大きな成功を収めたことになる。
  14. 異なるゲームのキャラクターと戦闘するのはなるべく避けること。あるゲームシステムではごく普通の呪文、物品、行動でも、別のシステムではそれに対応させられるものが存在しないことが多い。
  15. 『団結』して1人のキャラクターを集中攻撃するのは、楽しいかもしれないが、あまり公平とはいえない。標的にされたプレイヤーは短時間で大量の発言をさばくことを強いられ、時には全ての発言に返事をつけることすらできなくなる。こうなると、誰もやりたくないのに「当たった、当たってない」論争が巻き起こりかねない。それに、一対一の決闘は、しばしば無差別の大量殺戮よりずっと好ましいものだ。
  16. 自分の體血なり、マジック・ポイントなりの残量を覚えておくこと。大抵のゲームシステムでは、特殊能力や呪文を使うために何らかのポイント消費が必要である。自分の體血を考慮せずに【訓え】を連発してはいけない。遅かれ早かれ、體血プールが尽きてしまうだろう。また、體血を消耗するような【訓え】を使う時は、何点消費するのかあらかじめ宣言するといい。みんな好感をもってくれるはずだ。
  17. 特殊な能力や魔法の品物を使うときは、解説をつけること。すべてのTRPGの呪文やマジックアイテムを知っている人など、この地球にいるかどうかも怪しいものだ。だから、それが相手のキャラクターにどういう効果を及ぼすのかプレイヤーに知らせてあげてほしい。
  18. 「神様」なキャラクターと戦ってはいけない。そういうキャラクターは無視したほうがいい。相手にしては駄目だ。連中はたいてい不死身だったり、何度でも復活できたり、1発言で相手を消し飛ばす超強力必殺呪文を使えたりするので、戦ってもちっとも面白くない。無視したまえ、どうせ構うほどの価値はない。
  19. それに、しょせんは(ただの)TRPGではないか。これは人々が楽しく遊ぶためのゲームなのだ。「皆が楽しむ」ことこそ The Vampire Court が本質的にめざすものである。

この箇条書きを書くにあたっては、色々な人から協力をいただいた。あえてここに名前は挙げない。皆、それが誰だかお互いに知っているし、ここで名前を出して漏れがあってはいけないので。


オリジナルテキストA "How-To" on Online Combat
出典サイトAssamites.com
原著者翻訳Professor