White Wolfのゲームで困るのは、固有名詞の読み方や意味が分からないことだ。外国語の借用などはまだしも、造語になると目も当てられない。どうやらネイティブスピーカーにも同じ思いを抱く人々は多いらしく、そこで登場するのがBen Buckner氏のThe White Wolf Word FAQ である。WoDに登場する主な固有名詞の語源を徹底的に調べ上げた結果をご覧あれ。
なお、原文はWoD全製品を扱っているが、ここではWerewolfに関するもののみ抜粋してある。Klaiveの項は、Matt Ragan氏のサイトから引用追加した。
本文中に登場するギリシャ語は、本来アクセント符号付きで記されるべきものであるが、日本語環境では表示が難しいため符号を割愛した。
- AHROUN
- 狼が(満月に向かって)遠吠えする声の擬声語と思われる。語源は不明。
- CAERN
- おそらく cairn の綴り変え。cairn は、境界標、記念碑、墓標などとして積み上げた石のこと。日本では「ケルン」と訳されるが、英語発音は「ケアン」に近い。ランダムハウス英和によれば、語源はスコットランド語・ゲール語で積み石を意味する carn。ちなみに、horn(角)と同語源である。
- CRINOS
- ラテン語の crinis (髪)からの造語と思われる。もしくは、ギリシャ語の krinon (ユリ)を元にした可能性もある。W:tAのゲームデザイナーは、ラテン語の語根を妙な具合にねじまげて造語を作ることが多いようだ。
- GALLIARD
- 英語で「剛勇の」「快活な」という意味の形容詞、ただし現代では死語である。また、フランスで16-17世紀に流行した2人で踊る3拍子の軽快なダンスの名称でもある。後者は、リーダース英和では「ガリアルド」、ランダムハウス英和では「ガリアルダ、ガヤルド」と表記されている。英語読みは「ガリャード」に近い。
- GAROU
- フランス語、loup-garou が由来。 loup は「狼」の意味で、ラテン語で同じ意味の lupus が語源である。garou はフランク語の wariwolf、つまり英語でいう werewolf(人狼)から、数々の音韻変化を経て今のフランス語の形になったもの。
- GLABRO
- 「禿頭」を意味するラテン語根 graber からの造語と思われる。英語の glabrous (無毛の)と比較せよ。
- HISPO
- 「毛深い」を意味するラテン語根 hispidus からの造語と思われる。
- HOMID
- White Wolfの造語。 おそらくラテン語の homo (人)が由来だろう。分類学で「ヒト科(Hominidae)の動物」を指す hominid にちなんでいると思われる。
- KLAIVE
- 「大剣」を意味するゲール語をもじった造語。日本のTRPG界では「クレイモア」として知られる、スコットランドの両刃剣 claymore と関連があると推測される。Matt Ragan氏によれば、ゲール語ではClaiomhと綴るとのこと。
- LUPUS
- ラテン語で「狼」のこと。
- METIS
- フランス語で「混血」「雑種」の意。カナダでは白人(特にフランス系カナダ人)と北米インディアンとの混血児を特に指して使われるが、この用法は一般的に差別的表現と考えられている。フランス語読みだと「メティス」だが、地元の事情に詳しいWoDプレイヤーは、誤解を防ぐために、この言葉を「メティース」と、-tis にアクセントを置いて発音することを勧めている。もっとも、逆にその方が不快感を招くと反発している人々もおり、一概にどちらが好ましいとも言えない。
- PHILODOX
- ギリシャ語のよく知られた形態素 philo- と doxa の組み合わせが原型。philo- は「愛する」「……に親和的な」の意(性的な意味合いは含まない)。 doxa の方は少々複雑だ。この単語はもともと「(視覚的に)示す」という意味の語根から派生した。他のインド-ヨーロッパ語族の言語では、この語根は後に「例を示す」という意味合いを帯びるようになった。例えば、ラテン語の doceo や英語の teach (どちらも「教える」の意)などである。 ところがギリシャ語では同じ語根が、特に受動態で、「見える」という意味を与えられた。 この「見える」の意が本来の「示す」という意と結合して、おそらくはプラトンのイデア説の基本概念と関連して意味が発達した結果、「意見」という意味をもつ名詞 doxa が生まれたようなのだ。この意味の doxa から発生した複合語には、英語の orthodox(正統説の)や heterodox (異端説の)がある。なお、ギリシャ人は doxa に「名誉、栄光」の意も与えている。明らかに「示す」という原義から外れているが、明らかにギリシャ語源の合成語である Philodox で使われている doxa は、こちらの意味合いではあるまいか。すなわち、「名誉や栄光を好む者」を指すわけだ。
- しかし、doxa が英語にとりいれられたのは、主としてプラトンが『国家』第5巻でこの単語を使ったことからである。プラトンは感覚的知覚 doxa (ドクサ=意見)を重んじる人々と、理性的知識 sophia(ソフィア=知識)を重んじる人々の違いについて説いた。彼はくだんの本で、sophia を求める人を philosopher と呼んでいる。とすれば、doxa を求める人はまさしく philodoxer と呼ぶことができよう。プラトンはこの合成語を再解析して別の使い方もしている。それについては『国家』に興味深い手がかりがある。 プラトンは 「doxa に固執する人は philodoxical であると言われても仕方ない」というようなことを書いているのだ。 筆者(Buckner)が考えるに、プラトンは philodoxer という単語が英語の glory-hound のように軽蔑的な意味で使われることを知っていて、このような文章を書いたと思われる。
- 追補Oxford English Dictionary 第2版には、philodox が見出し語として収録されている。正確には「名誉や栄光を好む者」だが、orthodoxに影響されて「自分の意見を好む者、議論を好んだり教条主義的な者」と解釈されるようになった、とのこと。英語での初出は1603年になっている。
- RAGABASH
- イギリス英語の今は使われない口語の一つで、「浮浪者」「ごくつぶし」「ぼろを着た汚い男」「働かないでのらくらしている者」「不精者」「乞食」等々とおおむね同じ意味。
- TELLURIAN
- 英語でもめったに使われない言葉で、「地上の」「地球的な」という意味。
- THEURGE
- 例によってギリシャ語源の形態素 the-(神)+-urgy(…術、…業)からの造語。「神々を動かす者」の意(Buckner)
- 英語の theurgy の変形ではないか。theurgy は慈悲深い神々と会話し、その援助を受けようとしてエジプトのプラトン学派の者などが行った神秘的呪術のこと。日本語では「テウルギー」。語源は<後期ラテン語 theurgia <ギリシア語 theourgeia (魔法)。(Professor)