goth (n.) ゴス(ロック) 神秘的かつ終末論的な歌詞とうなるような低音を基調とした英国のロック; 70 年代後半の punk rock から発展した goth は 80 年代中ごろには英国の若者を魅了した; ゴスファンの多くは平和を好む菜食主義者で, 自分たちが 60 年代のヒッピームーブメントの後継者と思っている; 顔を白く塗り, 黒のどぎついアイライナーを入れ, 黒いレザーファッションを身につけるというファッションは都市部を中心に流行した; 代表的なグループに Siouxsie and the Bansheesがいる。
(リーダース・プラス英和辞典)

訳者まえがき:
ワールド・オブ・ダークネスを説明するキーワードの一つが「ゴシック」。しかし「ゴシック風ってどんな感じ?」と尋ねられて、あなたは即答できますか?

当テキストでは、ワールド・オブ・ダークネスの雰囲気に紛れもなく影響を与えたゴス・ロックのファンたちの文化を垣間見ることができます。いちおうゴス・ファン入門という形をとっていますが、日本人がそのままLARPで真似をするのはいささか気恥ずかしいかもしれません。しかし、テーブルトークスタイルで、「お人形(Blood Doll)」やナイトクラブの客を演じる際の参考資料になればと敢えてほぼ無編集で訳出しました。


君も今日からゴスになれる!

ステップ1:ゴスとしての名前を付けよう

ゴス的な自由と個性という新境地を本気で追求するつもりなら、それらしい名前をなのるのがいちばんだ。この際だから、内なる葛藤を世間にぶちまけ、「本当の自分とは?」という永遠の謎を探求する新たな人生の出発にふさわしい名前を選ぼう。

まずは、黒く染まった心のどの面を掘り下げるか決めよう……

  1. 哀愁に沈み、涙もろい、詩人のロマンチックな魂?
  2. 神秘的で、謎めいた、蠱惑的な、古えのヴァンパイアとしての前世?
  3. 思わず鼻で笑っちゃうような、イヤ……(咳払い)『大胆不敵な』本能?
  4. 傷ついて、憤り、苛まれて苦悩にとりつかれた自我?
  5. 念入りに築き上げられた自己嫌悪と破滅的性格?

何よりも創造的でなければいけないので、想像力をうんと奔放に働かせよう。ただし程良くハッタリと薄気味悪さのスパイスを効かせるのは忘れないように(だって、ゴスになりたいんだろ!)。

参考までに、ゴスの名前の主流をいくつか挙げておこう……

  1. 動物の類からとった名前。不気味な動物であるほどかっこいい!(バット、ラット、レイヴン、キャット、スパイダー……こんな風にね)
  2. おとぎ話や民話伝説からとった名前(でも、世の中にはただでさえ「リリス」がうようよしているし、グリム童話はもう手垢がついているから、やめておいた方がいい!)
  3. 地獄の事物や悪魔からとった名前(俗に「堕天使」といわれる数多くの小物の悪魔たちの名前や解説を集めた良い参考資料がある。ゲティングズ『悪魔の事典』(青土社)などがおすすめだ*1
  4. 聖書からとった名前(もっとも「Jesus*2」なんて名乗る奴とはあまりお近づきになりたくないな。そいつがヒスパニック系なら別にいいんだけど)
  5. 嫌悪感をそそるものや、悪い習慣の名前(うーむ……Melena なんてどうだろう? 発音はメリーナとかわいいけれど、医学用語で血便のことなんだよな)
  6. ホラー映画や小説からとった名前(おっと、ジェイソンとフレディは問題外だぞ)
  7. 詩からとった名前(めそめそした連中にはお似合いだろ……うー)

もちろん色々組み合わせたってかまわない、自分の好みにあう名前をつくればいい。なにしろゴスには多様性、創造性、そして個性が肝心だからだ(ある程度までは)。

ステップ2:どんなゴスになろう?

さて、ゴスな自分に名前をつけたところで、今度はいったいどんなゴスになるのか決めておこう。いちばん簡単な決め方は、自分の暗い、ひねくれた、自己陶酔的な、悩み多き面を探ってみることだ。コンピューターオタクなら、サイバー・ゴスとでも名乗ればいいし、レン・フェアが好きならレン・フェア・ゴスになればいい。自分はスティービー・ニックス*3のクローンだと思うならハスキーヴォイス・ゴスだ。例を挙げればきりがない。自分の内なる闇を探り、ひときわ暗く光るものを見つけよう!

ステップ3:ゴスになりきれ

クラブの薄暗い隅にたむろしつつ、あくまで芝居がかった仕草を心がけよう。憂鬱が、今ふかしているクローヴ入り煙草ぐらい確固としたものとして伝わるようでなければだめだ。細い肩を軽く丸めてスツールに腰掛け、禿鷹のように気怠い目つきで、煙草の煙たちこめるクラブの店内を見回す。指輪をいくつも嵌めたほっそりした指を優雅に曲げて、蒼白い手に黒檀色のレースの扇を握り、ゆるゆるとあおごう。黒く縁取った漆黒の眼を伏せがちにして、ものを見るときは物静かな冷めた視線を投げかける。冷淡なほどに落ちつきはらった態度で、俗世離れした気怠げなポーズを見せつけよう。

もし、物憂げな象牙色の顔を、抑えがたい幸福や愉快の輝きがうっかりかすめてしまいそうになったら、さも気怠げに、憂鬱な溜息を小さくついて顔をうつむけ、扇の影でふさわしからぬ微笑を隠してしまおう。かすれ声の囁きや謎めかした礼儀正しい言葉と潤んだ目で言い訳して、ぶらぶらとお手洗いに歩いて入る。そこで決然と、ロマンチックに悲劇的なポーズをとって、おもむろに化粧直しを始めるのだ。くれぐれも鼻ピアスに水滴を跳ね散らかしたりしないよう気をつけること。また、ビンディ(インド風の化粧。額の中央に付ける点)の上にパウダーをはたいてしまわないように。

踊るときは、そのダンスがあたかも魔術の儀式か神託の祈祷のようなつもりになろう。くるくる回って、体を揺すったりよじったり、さっと身をかがめたり、自分だけの、苦悩に満ちたリズムに乗って舞う。一挙手一投足まで物憂く官能的に、しかし時には劇的な仕草でがくりと体を横に傾けたり、前に飛び出し音楽に合わせて(別に合わさなくてもいいが)湧き起こる内なる苦悩や情熱に突然胸を突かれた様を表現したりする。

詩的な表現をすれば、人々がそのダンスを見て、踊り手が謎めいた陰鬱な異次元を永遠にさまよい続けるうちにこの荒涼とした物質世界に囚われてしまったかのように思えるぐらいでなければいけないのだ。黒くも繊細な翼の、思い出せないほど遠い記憶はいまも微かに踊り手に情熱を吹き込み続け、それゆえに踊り手はこの絶望的な魂の有り様に、過去と現在にかろうじて耐えているのだと思わせるほどに。絶えず、苦悩と、倦怠と、絶望を訴えるのだ。

最後にひとつ、ゴスとは単なるファッションではない。救いを求める叫びであり、そのための手段としてほとんどありとあらゆる過激なファッションに走るのだ。

さあ、おまえの内に棲むコウモリを解き放て……

ステップ4:メイク/ヘアスタイル

髭の手入れ
大丈夫、たとえ日焼けした髭ぼうぼうの男だってゴスになれる。まず最初に必要なのはカミソリだ。髭を生やしている男性なら、生け垣みたいに「刈り込む」ことを考えよう。見るべきは映画『三銃士』――マイケル・ヨーク主演のフィルムだ。片目に眼帯をした男をよーーーーーく観察すべし。フェイ・ダナウェイ演じる女といちゃついている奴だぞ。それから髭を刈り込めば、ちょっと独創的な髭になるだろう。

陰のある人狼っぽい雰囲気を出したいなら(ま、熊でもいいが)、眉毛は整えずに残しておく。そうでなければ、眉は剃り落としてしまおう。眉毛は一種の芸術形式だ、DNAの気まぐれに任せてなどおけない。どちらかといえば女性的に見られたいゴスは、とにかく眉をきれいさっぱり剃るべきだ。顔面をつるりと綺麗にしてから本番のメイクにとりかかろう。

肌はピエロの白塗りが基本
ファンデーションは地肌の色より少なくとも2段階は明るいものを使う。Kryolan などがいいだろう。人工的な感じに、舞台役者っぽく仕上げよう。自然の陽光下での見映えなどゴミにして壁に塗り込めてしまえ。唇の輪郭は無視して、肌との境界を塗りつぶすように大きめに描く。肌はキャンドルの火明かりで幽霊のように仄白く浮かび上がるぐらいでなければだめだ。

その唇! その瞳!
眼は翼を生やして顔から飛び立ちそうな具合にもできる。あるいは俳優のルドルフ・ヴァレンティーノのように黒く沈んだ感じにもできる。ここでセンスが光ってくる。初心者はとにかく黒を使うべし。黒なら失敗せずにすむ。黒のアイライナーは必須である。黒のパウダータイプのアイシャドウがあれば最高だ。大胆に塗れ。唇? 古い自分の唇の記憶などにとらわれてはいけない。リップペンシルで唇の輪郭を、新たなゴスとしての自分にふさわしいように描く。その内側をリップスティックで塗りつぶしてぼかす。ペンシルの色はリップスティックと同じでなくてもかまわない。むしろ、それより暗い色合いの方が望ましいぐらいだ。新しい顔はどう?

ヘアスタイル
カールして、染めて、ぼさぼさにする。映画『シザーハンズ』に出てくるエドワードの髪は完璧なゴス・スタイルだ。セット力の強いヘアスプレーを一缶買って、思う存分吹きつけよう。もっと劇的な効果を狙うなら、髪を完全に剃り落としてしまう。遮るものがなくなれば、素晴らしいゴシックな瞳がいっそうひきたつだろう!!!

ステップ5:ファッション

とにかくゴス・スタイルでは黒が基本だ。怖がることはない。手持ちの中から黒い衣類をありったけ探してこよう。それを片っ端からピンで留める。風になびくように、ふわふわと、墓から起きあがった屍体を思わせる感じで。ヴァンパイアを意識しよう。レスタトなら今、この瞬間に何を身につけるだろう?

アクセサリーと小物類
基本的なものをかいつまんで挙げるが……想像力を駆使して自分ならではのスタイルを想像すること。

しかし、最も重要な小道具といえば、扇、陰鬱な詩の詩集、アンティークのレース製ハンカチ、その他なんでもいいから、場違いな見られてはまずい笑顔を隠す品物だ。

でも頼むから、テニスシューズだけはやめてくれよ!!!

ステップ6:音楽

おお音楽、ゴスを人類の有象無象と区別するために最も重要なものの一つ。まずは手持ちのCDを調べてみよう。およそ感傷的、暗鬱、哀愁、邪悪、浮世離れした、怒りに満ちた、苦悩に苛まれた、悲劇的……そういう形容が似合う音楽を手当たり次第に抜き出す。とにかく、聴いていて自己憐憫の涙が浮かんでくるもの、心に自己嫌悪が兆してくるもの、何でも良いから内なる暗黒面を表にわきあがらせてくるものだ。それを何度も何度も何度も繰り返してかける。それが自分の一部になるまで、自分らしさの一部になるまで、ゴスとしての自分に組み込まれるまでだ。

ステップ7:

ゴス予備軍の諸君に課題として、暗鬱な詩想を書きとめ、己のものとする作業を課す。人前で自作の詩を吟唱し合うのは、美人コンテストで素質がものをいう部分にも比せられるが、詩の発表会にはとりたてて優勝者というものはいない。深遠な内的思索はきっと、自分で決めたゴス名、ゴス・タイプ、ファッションや態度やメイクを正確に反映したものになるだろう。



オリジナルテキストHow to be Gothic As Fuck(tm)*
出典サイトVentrue.com
原著者Cassius
翻訳Professor