ヴァンパイアは、明らかに、生理学レベルでみると人間とは大きく異なっている。体温や食物のように一見して判る点もあれば、それほどわかりやすくはない微妙な違いもある。ヴァンパイアの生理機能は科学でわりきれる性質のものではないが、いくつかの理解できる法則に従っているようだ。

疲労

ヴァンパイアが激しい運動をした場合、疲労の現れ方は人間と異なる。まず心拍数や呼吸数には何の変化もあらわれない。そもそもそんなものがないからだ。また、筋肉を使うことでその中に蓄積する、人間の疲労の原因である乳酸から悪影響を受けることもない。ヴァンパイアは活動エネルギーを体内に摂取した血から引き出していて、多くのエネルギーを引き出そうとするほど消費する血の量も多くなるのである。活動を持続するのにエネルギーが必要な点では同じなので、人間が疲労に耐えて運動を続けられるかどうか強靱力 (Stamina) 判定をするような場面では、ヴァンパイアも同じ判定を行う。成功すれば何の影響もないが、失敗したらブラッド・ポイント1点を消耗し、大失敗したらブラッド・ポイント1点の消耗に加えて何らかのトラブル(内容は状況によって異なる)が起きる。ヴァンパイアは人間と違って筋肉を「ウォームアップ」する必要こそないが、肉離れや捻挫はじゅうぶん考えられるから、大失敗の結果としてそういうことを起こしてもよい。他の怪我と同じく、肉離れや捻挫も自然には治らないので、余分に再生のための血が必要になるだろう。

結論として、ヴァンパイアは長時間激しい運動をしても人間と違い疲労を感じることはないが、その代わり空腹を覚えると思われる。空腹感がひどくなると食餌をしたいという衝動がつのり、場合によっては運動を持続できなくなることもある。

発汗

長時間の激しい運動は、ヴァンパイアに人間とよく似たある生理現象を生じさせる。つまり、汗をかくのだ。ヴァンパイアが、強靱力判定が必要になるような長時間の激しい運動によって、ブラッド・ポイントを3点以上消耗した場合、体内の血が汗として分泌されはじめる。ブラッド・ポイントとして計上するほど多くはないが、はっきりと判る量である。運動によるブラッド・ポイントの消耗が多いほど、血の汗も多く分泌される。

血の汗はまた、ヴァンパイアが一時的に能力値を増幅させる時にも生じる場合がある。上昇後の能力値が(世代による上限+1)点以下なら問題ない。しかしそれを超えて増幅させる場合、3ターンで効果が切れるので、維持するにはさらにブラッド・ポイントをつぎこまねばならない。このように非常に高い能力値を維持する目的でブラッド・ポイントを3点以上つぎこんだヴァンパイアは、血の汗をかきはじめる。

体温

ヴァンパイアは、ブラッド・ポイントを消費して一時的に体温を人間並みに上げることができるし、Merit: Blush of Health (健康な顔色) を持っている者はつねにある程度の体温を保っている。しかし、実はそれ以外の用途にブラッド・ポイントを消費した時も、ヴァンパイアの体温はほんの少し上がるのだ。普通なら気がつかないほどわずかで、すぐ元の温度に戻ってしまう。だが急速に大量の血を消費した場合には、はっきり判るほど体温が高くなるだろう。とはいっても、人間の平熱にはとてもおよばないが。

こういうと、わざわざ体温を得るためだけにブラッド・ポイントを消費する意義がないと思うかも知れないが、こうした副産物的な体温の上昇はきわめてわずかで、すぐに消えてしまうため、人間に見せかけるにはとうてい役に立たない。しかし、他のヴァンパイアがブラッド・ポイントを使ったかどうかを見分けるには有効だろう。体温が通常(つまり室温)よりわずかに高くなっているからだ。

睡眠

ヴァンパイアはどういうわけか昼間は眠ってしまう。夜明けが近づくと、見なくても本能的に察知して眠気を覚えはじめる。無理に昼のあいだ起き続けていようとしても、たえず猛烈な眠気と戦わねばならない。これは人間性 (Humanity) やパス (Path) の値がどんなに高くても避けられないことだ。しかし再び夜がめぐってくると眠気は消えてしまい、まるで昼じゅう眠っていたかのように、すっきりした頭で活動できる。

睡眠中に夢を見ることがあるのは人間と同じだ。もっともヴァンパイアはたとえどんな夢を見ていようと、まったく身動きしない。レム睡眠中の眼球運動さえみられないのだ。

人間性やパスの値が低いほど、昼間の眠りは深く、目覚める時間も遅くなる。しかし、そんなヴァンパイアでも一度目覚めたら、夜明けが近づくまで眠気はまったく感じない。

体液

しばしば、ヴァンパイアが分泌する体液はみな血であると考えられている。だが、明らかにこの限りでないのが彼らの眼や口だ。カラカラに乾いてもいないし、赤い血でぬらぬらしているわけでもない。しかし、ヴァンパイアが唾を吐いたり、汗をかいたり、涙を流すとき、出てくるのはどうみても血液である。

この矛盾をどう説明するか? おそらく、ヴァンパイアの体は、体組織に適度な湿り気を与えるために透明な体液を作ることができるのだろう。ただし、その体液はヴァンパイアの血液から精製されるのだ。あまり速くは作れないので、然るべき部位を乾燥から守れる程度の量しかない。そこで、そういう体液がすぐに大量に必要な場合(唾を吐いたり、涙を流したり)、体液では足りないので代わりに血を分泌するというわけだ。

鼓動

筆者註:この項の記述にはまったく何の根拠もありません。単に面白いと思ったので付け加えてみました。

通説に反するが、ヴァンパイアの心臓はごくまれに、ほんとうにまれにだが、鼓動する。ブラッド・ポイント1点の消費につき1回の割合で、意識的に動かすこともできる。また、昼間、ヴァンパイア状態を維持するためのブラッド・ポイントが消費される時、1度だけ、非常にゆっくりと鼓動する。

〈千里眼(Auspex)〉を使うヴァンパイアなら、その鼓動を聴きとることもできる。できるが、それには静かな場所で対象にうんと近づき、知覚力 (Perception) +〈警戒(Alertness)〉で難易度8-10という、非常に厳しい判定に成功しなければならない。

オリジナルテキストMant's Lair - World of Darkness Storyteller Resorces
原著者不明
翻訳Professor