この文書は現在スウェーデンに居住するあるエルダーの書庫に隠されていたのを発見された。このエルダーはトレメアかヴェントルーだとと思われる。本文中の心理操作の巧みさからすると、トレアドールだった可能性もあるが……なんとも言えない。いずれにせよ、この文書を入手するのに払った代価など安いものだし、これには当を得た示唆がいくつか含まれている。ネオネイト(Neonate) 諸君、心して読むがいい。きっと何かしら得るものがあるだろう。


エルダーおよびアンシーラ(Ancilla) の同胞諸君、ここに小癪なネオネイトどもの有効な利用法をいくつか紹介しよう。ネオネイトなど鬱陶しくてマスカレードを脅かすばかりだと思われる向きもあろうが、実はこんな使い道があるのだ。

プリンスの謁見を終えたばかりのネオネイトからは目を離さないことだ。血祖(Sire)がもはやそのネオネイトの行動に監督責任を持たなくなったとはいえ、当のネオネイトはまだまだ若く、うぶである。他の誰とも対等の立場だと思いこんでいることも多い。しかし、じきに思い知るだろう。ネオネイトは自ら進んで模範的なキンドレッドになろうとするが、まあたいていは何がしかの失敗をしでかすものだ。餌食から飲み過ぎたり、マスカレードを少々侵したり、他人の封土(domain)で狩りをしたり、まずいときに狂獣化(Frenzy)してしまったりといった、経験を積んだ者なら避けられたであろう些末な過ち。そんなとき親切なエルダーが介入して、窮地から救い出してくれたとしたら、その哀れなひよっ子はさぞかしありがたがることだろう。恩恵のひとつやふたつは施しておいて害にはならないものだ。それに、プリンスに話すぞと脅すことはいつだってできる。

ときには、我々の社会に浸透している「御恩と奉公」の仕組みをまだ理解できていないネオネイトもいる。これは時としてたいへん愉快で、飛んで火に入るネオネイトというものを見ることができる。要するに、なにも、新米が後で恩を売れるような失態を犯すまで待ってやることはないのだ。私が知っているアンシーラは若いご婦人方を畜人(Herd)として囲っていたが、ある小うるさいネオネイトの立ち寄りそうなところに彼女らを放しておいた。ネオネイトはただでさえ貧血ぎみだった畜人をそれとは知らず餌食にし、その女が死にかけているのに気づいて恐れおののいた。まあ、何をしたにしろ、かのアンシーラはそのことをネオネイトをあやつる操縦桿として利用したにちがいない。

他にネオネイトの利用法としては、当人の血祖(ちおや, Sire)に対する工作員に仕立てるというのもある。一般に、胤子(たねご, Childe)創りの許可を得たことのあるようなキンドレッドは世故長けていて、よほど巧妙に仕掛けなければ罠など見破ってしまう。しかし創られた胤子を操るのは簡単だ。いちど他人の胤子に大きな貸しを創ってみたまえ。その子を傀儡にして血祖を操るのもいいし(こちらは簡単とは限らないが)、もっといいのは胤子が自分に借りを作ったことを血祖に知らせてやることだ。血祖が胤子の代わりに恩返しさせてくれと申し出ることは珍しくないし、そうすれば血祖に結構な貸しが作れる。もっともそれが最初からの狙いなのだが。

また、ネオネイトは身代わりに仕立ててもよい。ばかばかしいほど簡単に操れるので、彼らを利用すればたやすくトラブルを起こし、またその罪を着せることができる。ネオネイトに陽動として騒ぎを起こさせて自分の行動を隠蔽するというのも場合によっては悪くない手だ。私が知っているあるプリンスは、こんな妙策を使ったことがある。

ネオネイトの何人かに、サバトの勧誘員のように見えるキンドレッドが、各自が一人のときを見はからって接触してきた。この一件をただちにプリンスなり自分のエルダーなりに報告しなかったネオネイトたちに白羽の矢が立てられた。彼らは、ちょっとした、たわいもない用事を頼まれ、報酬として『重要な』情報や、高価な品物や、利用価値の高いコネを受け取った。「ちょっとした用事」とは、ひとつひとつは本当に何ということもないものだが、すべてが組み合わさるとプリンスがかねて嫌っていたエルダーをサバトの支持者であるかのように見せかける仕掛けになっていたのだ。件のネオネイトたちはサバトが潜入工作を行なっているのではないかと疑いはじめ、彼らの口からその噂が広まったため、プリンスはサバト対抗策をより余裕をもって進められるようになった。そしてアルコン(Archon)が訪れたとき、プリンスはサバトの潜入工作員を摘発することで、アルコンの注意をプリンス自身が進めていた陰謀から容易にそらすことができたというわけだ。もちろん、その陰には例のエルダーと、知らず知らず彼に協力した形になってしまったネオネイトたちの犠牲があったわけだが。かくしてこのプリンスは、カマリーラの強力な支持者であり、悪の組織サバトを容赦なく壊滅させるという評判を得たのである。

しかし、やはりネオネイトのどこに利用価値があるかといえば――からかって遊べることだ! うぬぼれて、自分は夜の支配者であり、本来目上のはずな相手と対等であるように思いこんでいるネオネイトほど楽しいものはない。ゆったり構えて、若造どもの道化ぶりを眺めていればよい。いずれ彼らが永遠の夜を生き延びてエルダーの取り巻きとしてのしあがろうと、エルダーの足下にひざまづく時がくる。そういうネオネイトが助言を求めてやってきたら、もったいぶって髭を撫でながら、懇切丁寧に世の中の仕組みについて説いてやりたまえ。たいてい何を言っても頭から信じ込んでくれるものだ。そしてネオネイトに物を尋ねられたとき、諸君もきっと気づくだろう。50年前も、100年前にも、ネオネイトがやってきて同じことを尋ねたことに……

オリジナルテキストPatman's Gateway to the World of Darkness
原著者不明
翻訳Professor