『In Nomine』は、天使と悪魔が世紀末の地球で抗争を繰り広げるTRPGである。実はこのゲーム、フランスの同名RPGを「GURPS」でおなじみのスティーブ・ジャクソン・ゲームズ社がリメイクしたという経緯がある。ちなみに原作を作ったフランスの会社の名前は、Asmodee Editions (アスモデウス出版(笑))という。嘘のような本当の話。

言うまでもなく、プレイヤー・キャラクターは天使または悪魔ということになる。超人的な能力をもつ存在が現代の地球で戦う、という設定のRPGは数多いが、『In Nomine』がそれらの作品と一線を画しているのは、斬新というか、乱暴というか、ぶっちぎれた世界観にある。

世界は音楽だ

と、In Nomineは言い切ってしまうのだ。神が天使という楽器を介して奏でる交響曲が宇宙を創造する――いや〈交響曲〉こそ宇宙そのものなのだと。オーケストラで奏者が自分のパートを演奏するように、天使は日々割り当てられた務めを果たし、その行動は霊的な音となり旋律となり、他の天使が奏でる旋律と組み合わさって世界という交響曲となる。タクトを振る指揮者はもちろん、神である。

では悪魔とは何なのか。In Nomineの悪魔はほとんどが堕天使で、自分の性質に背く行ないが重なって天界を追放された身である。天使は〈交響曲〉を奏でるために他の天使と協調しようとするが、悪魔は自分勝手な演奏をして他人をそれに合わさせようとする――だから、ふだんの行ないからして自己中心的なのだ。

ちなみに、天使や悪魔たちをオーケストラに例えるとどんな楽器なのか、というと……


セラフィム 真実の天使 弦楽器 バルセラフ 虚偽の悪魔 弦楽器
ケルビム 守護の天使 金管楽器 ジン 執着の悪魔 金管楽器
オファニム 流転の天使 パーカッション カラビム 破壊の悪魔 パーカッション
エロヒム 公正の天使 ベル、チャイム ハバラー 拷問の悪魔 シンセサイザー
マラキム 勇敢の天使 バスドラム、ティンパニ リリン 誘惑の悪魔 演奏者
キリオテイト 自由の天使 木管楽器 シェディム 堕落の悪魔 オルガン
メルクリアン 人間の天使 ボーカル インピュダイト 吸精の悪魔 ボーカル

基本的に、左の種族の天使が堕天すると右の種族の悪魔になる。ただしマラキムは堕天することはなく、リリンはそもそも堕天使とは起源を異にする。

ハーモニーの奇跡

天使は「楽器」なだけに、自分と似た音を出す=近しい性質を持つものとは「共鳴」する。これは種族ごとに異なる感知能力としてはたらく。

反対に、自分の性質に反する行動をする=自分が出すべきでない音を出してしまうと、それは「雑音」となって天使につきまとう。雑音は「共鳴」能力を妨害するだけでなく、積もり積もると「不協和音」になり、天使の体や心の欠陥を引き起こす。変な弾き方ばかりしてると楽器が傷むのと同じである。運が悪ければ、天界を追放されたり、堕天して悪魔に成り果てる可能性もあるのだ。

In Nomineは、天使が引き起こす奇跡さえ、この「天使=楽器説」で説明してしまう。いわく、和音は一つ音を加えるだけで違う響きをもつ違う和音になる。だから、天使が世界を構成する音楽にほんの少し違う音を加えれば、世界を変化させる=奇跡を起こすことも可能なのだ、と。そのために使われる旋律=特別な言葉としぐさを〈歌〉と呼ぶ。ゲーム的に見ればいわゆる魔法なんだけどね。

悪魔も元は天使だけに、〈歌〉も使えれば「共鳴」もする。だが、その性質はかつてと正反対になっている。

獣の数字

システムはさすがにGURPSのスティーブ・ジャクソン社が手をかけているだけあってよくまとまっている。キャラクター作成はGURPSと同じCP制でかなり自由がきくが、前もって種族と仕える大天使or 魔大公を選ぶことで特殊能力や個性がだいたい決まるのでイメージが固めやすい。

全体になんとなくGURPSを思わせるルールになっているので、知っている人なら理解も早いだろう。ただし成功判定だけはちょっとユニークだ。6面体サイコロを3つ使うところはこれまたGURPS的だが、2個の出目を合計して目標値以下なら成功、残り1個の出目は成功度(失敗度)として扱う。天使のキャラクターが6ゾロを振ると666は獣の数字なのでファンブル、というのは洒落が効いている。もちろん悪魔のキャラクターで666が出るとクリティカルである。反対に1ゾロ(111)は天使にとってクリティカル、悪魔にとってファンブルの出目になる。

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